当院で行っているリンパ浮腫治療

リンパ浮腫とは

 形成外科では手足のリンパ浮腫に対して治療を行っています。リンパ浮腫のほとんどはがんの治療後に生じ、足(脚)のリンパ浮腫は婦人科がん(子宮がん、卵巣がん、外陰がん)や前立腺がんの治療後、手(腕)のリンパ浮腫は乳がんの治療後に生じます。

 心臓から全身に送り出された血液のうち9割は静脈を通って心臓に戻りますが、残りの1割はリンパ管を経由して心臓に戻ることが知られています。がん治療(リンパ節郭清、放射線治療、抗がん剤)によってこのリンパ管やその中継点であるリンパ節がダメージを受けた場合、脚や腕にリンパ浮腫を発症することがあります。この状態を続発性(もしくは2次性)リンパ浮腫と呼びます。また、がん治療などの明らかなきっかけがないにもかかわらずリンパ浮腫を発症する、原発性(もしくは1次性)リンパ浮腫という病気も存在します。どちらの場合もリンパ浮腫は一度発症すると完治することが困難ですが、上手に付き合うことで症状を軽減したり、悪化を防いだりすることができます。

リンパ浮腫治療の基本:圧迫療法とリンパドレナージ

 リンパ浮腫に対する治療の中心は圧迫療法とリンパドレナージです。圧迫療法には専用のストッキングや包帯、グローブ、スリーブ(まとめて「弾性着衣」と呼ぶ)を使用します。リンパドレナージは「マッサージ」と言われることもありますが、サロンやエステで行われている「リンパマッサージ」とは全く異なるもので、資格(リンパ浮腫療法士など)を持った医療者が行います。

 リンパ浮腫の治療のために形成外科を受診した場合、まず、医師が診察して浮腫の原因となる他の疾患や、圧迫療法やリンパドレナージを行えない病気(深部静脈血栓症や閉塞性動脈硬化症など)が隠れていないかどうか判断します(保険診療)。伊那中央病院でリンパ浮腫の診察を希望する方は、主治医に診療情報提供書(紹介状)を作成してもらい、形成外科の予約をお取り下さい。リンパ浮腫の初診日は月曜午後です。

 圧迫療法・リンパドレナージが可能な状態であれば、リンパ浮腫外来(火・木・金、完全予約制)でリンパ浮腫療法士の資格を持った看護師がドレナージの施術や適切な弾性着衣の選択を行います。ドレナージや弾性着衣の選択は現在、健康保険の対象になっていないため、自費診療(全額自己負担)になります。ただし、弾性着衣の購入費用については、続発性リンパ浮腫のほとんどの場合が療養費払いとして健康保険の適用になっているため、申請を行うと後日、購入費用の7割(上限あり)が還付されます。申請には病院が発行する「弾性着衣等 装着指示書」が必要ですので、医師またはリンパ浮腫療法士にお尋ね下さい。

圧迫療法の指導、リンパドレナージ等の料金はこちらをご覧ください(リンパ浮腫外来ページへ)

リンパ浮腫に対する手術:リンパ管細静脈吻合術(LVA)

 圧迫療法やリンパドレナージを行ってもリンパ浮腫が軽減しない場合や、蜂窩織炎(細菌感染)を繰り返す場合には、手術によるリンパ浮腫治療の対象となります。この手術はリンパ管細静脈吻合(ふんごう)術(LVA)と呼ばれ、顕微鏡を使ってリンパ管と静脈をつなぐことで、手足に貯まったリンパ液を静脈経由で心臓に戻す手術です。もともと全身のリンパ液は鎖骨の裏で太い静脈に流れ込んでいるため、リンパ管と静脈をつないでも問題は生じません。

 LVAでは脚や腕の皮膚を2~3cm切開してリンパ管(平均0.8mm)を探し、近くの静脈とつなぎます。1回の手術で2か所程度の吻合を行います。 主に全身麻酔で行いますが、心疾患などのために全身麻酔の負担が大きい場合には局所麻酔で行うことも可能です。入院期間は9日間で、術後7日目に抜糸して退院です。LVAは健康保険の対象として認められています。

 伊那中央病院ではこの入院期間をリンパ浮腫に対する理解を深めるための「教育入院」の機会と捉え、手術を行うだけでなく、多職種が連携してリンパ浮腫の治療をチームでサポートしています。まず、手術前にリンパ浮腫療法士がリンパドレナージと圧迫療法を行い、手術時にリンパ管が見つかりやすい環境を整えます。術後は病棟看護師が1日2回、適切な強さで弾性包帯の巻き直しを行い、その合間にリンパ浮腫療法士がドレナージを行います。また、手術翌日から理学療法士の指導の下でリハビリテーションを開始し、階段昇降、バランスボールや自転車エルゴメーター、プーリー(滑車)などを使い、圧迫下での運動療法を行います。チーム医療を通じてリンパ浮腫との上手な付き合い方を身につけてもらうだけでなく、入院期間中に手足が細くなることを実感してもらうことで、退院後も圧迫療法、リンパドレナージ、運動を継続するモチベーションにつながることを目指しています。

長野県内の基幹病院との連携

 伊那中央病院 形成外科では長野県内のほとんどの基幹病院と連携し、地域の病院で圧迫療法・リンパドレナージを受けながら、伊那中央病院でLVAを受けられる体制を整えています。すでに他院のリンパ浮腫外来に通院中の方で、伊那中央病院でのLVAを希望される方は、通院中のリンパ浮腫外来の担当者にご相談下さい。

実際の症例とLVAの様子

  ご本人の許可を得て写真を使用しています。治療前後の写真と治療経過の説明は「医療広告ガイドライン(厚生労働省)」に則り、客観的で正確な情報を掲載しています。

実際の症例①【右下肢リンパ浮腫】
 
LVA前   LVA後10か月

 23年前に婦人科腫瘍に対して子宮全摘、リンパ節郭清を受けました。治療後22年で右下肢に浮腫が出現し、圧迫療法を行っていましたが、蜂窩織炎(ほうかしきえん)を起こすようになったため、LVAを希望されました。LVAでは膝と下腿の2か所でリンパ管と静脈をつなぎました。LVA後10か月の時点で、膝下の周径が10.0cm減少し、蜂窩織炎を起こしていません。圧迫療法を継続中です。
※効果には個人差があり、LVAを行っても効果が見られない場合があります。

実際の症例②【左上肢リンパ浮腫】
 
LVA前   LVA後2年2か月

 14年前に左乳がんに対して乳房部分切除、リンパ節郭清、放射線治療、化学療法を受けました。治療後2年で左上肢の浮腫が出現し、圧迫療法を始めましたが、その後も浮腫は進行しました。3年間で2回、入院治療が必要な蜂窩織炎を起こすようになったため、「蜂窩織炎を減らすために手術を受けたい」とLVAを希望されました。LVAでは肘と前腕の2か所でリンパ管と静脈をつなぎました。LVA後2年2か月の時点で、肘下の周径が6.8cm減少し、蜂窩織炎を起こさなくなりました。圧迫療法を継続中です。
※効果には個人差があり、LVAを行っても効果が見られない場合があります。

LVAの施術の様子
①リンパ管と静脈をつなぐ施術を行います
②リンパ管の側面に静脈の太さに合わせた穴をあけます
③太さ100分の2ミリの糸で静脈を縫い付けます

 このつなぎ方を「側端吻合」と呼びますが、この他にリンパ管と静脈の断端どうしをつなぐ「端々吻合」というつなぎ方があります。

主なリスク・副作用等

 多くの症例でLVA後、患肢の周径や水分量が減少しますが(Journal of Reconstructive Microsurgery誌2018年11月号に報告)、リンパ浮腫の進行によってリンパ管が変性してしまっている場合には、リンパ管が見つからない可能性や、LVAを行っても効果が見られない可能性があります。
 また、一度、効果を認めても、後で吻合部が閉塞し、効果がなくなる可能性があります。
 原則としてLVA後も弾性着衣による圧迫療法の継続が必要です。
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