呼吸器外科

治療方針
● 原発性肺癌は男女ともに増加傾向にあり、罹患率は大腸がん、胃がんについで3位(男性4位、女性3位)であるものの、死亡率は1位(男性1位、女性2位)の全癌種のなかでも予後不良な疾患です。CT健診の普及で手術が必要となる方も増えています。早期の肺癌においては、呼吸機能の温存を考慮した縮小手術を行います。また、術前に縦隔リンパ節転移が認められるような進行した症例では、化学療法・放射線療法を併用した集学的治療ならびに拡大手術を考慮し、根治率の向上を目指しています。
● 大腸癌や腎癌、婦人科領域の悪性腫瘍などの転移性肺腫瘍(肺転移)症例に対して、原発巣がコントロールされている場合は、積極的に肺転移巣の切除を行います。
● 胸腺腫などの胸腺腫瘍に対して胸腺全摘術を行います。また、一部の重症筋無力症に対して、症状の改善を目標として拡大胸腺全摘術を行います。
● 自然気胸の治療は胸腔ドレナージが基本となりますが、ドレナージでも改善が得られない場合や、再発した場合などは手術を行います。また、自然気胸をはじめとした良性疾患に対しては、低侵襲である胸腔鏡手術を行います。
● 胸部外傷に対して、保存的治療、胸腔ドレナージ、手術などを行います。
● 呼吸器外科領域では、原発性肺癌、転移性肺腫瘍などの悪性疾患や、自然気胸、良性肺腫瘤、縦隔腫瘍、炎症性肺疾患(肺化膿症、膿胸など)、胸壁疾患に対する外科治療を行います。外科治療については、病気の進行度、患者さんの状態に適した術式を選択します。
● 肺癌、良性肺腫瘤、縦隔腫瘍にも積極的に胸腔鏡手術を導入し低侵襲手術を行っています。
● 肺癌や縦隔腫瘍に対してロボット手術支援システム(ダヴィンチ)を用いた手術を実施(準備)しています。
● 各疾患については、術前診断、手術適応の決定、術後治療などについて呼吸器内科、放射線診断科、放射線治療科と密接な連携を取りながら診療を行います。
呼吸器外科の特徴
これまで肺癌に対する標準術式としての肺切除術は後側方切開(肩甲骨の下部から乳房下縁まで)し、肋骨を後方で切断して開胸して手術(肺葉切除と肺門縦郭リンパ節郭清手術)を施行していました。しかし、近年は内視鏡を用いた胸腔鏡手術やロボット手術支援システム(ダヴィンチ)を用いた手術が普及し、患者さんの切開を最小限にすることで生体への侵襲が少なく、回復が早い利点があるとともに、従来の開胸術と同程度の手術が行えるようになってきました。
・ 内視鏡を用いた胸腔鏡手術
自然気胸や縦隔腫瘍で用いられてきた胸腔鏡手術を肺癌手術にも用いて、最大の創部で5~8cmを1箇所、その他の創部1~3cmを2、3箇所にして肺葉切除と肺門縦郭リンパ節郭清手術を施行しています。
・ ロボット手術支援システム(ダヴィンチ)を用いた手術
呼吸器外科領域では、肺悪性腫瘍に対する肺葉切除術、肺区域切除術と縦隔腫瘍手術、拡大胸腺摘出術が保険適用となり、当科では2020年7月に縦隔疾患に対してロボット手術支援システム(ダヴィンチ)を用いた手術を施行し、呼吸器外科領域では長野県内で4施設目となります。また、肺癌に対してはより安全に施工できるように鋭意準備中(2021年4月)です。
2)3D-CTを利用した肺区域切除術
CT肺癌検診の普及などにより、小型でリンパ節転移を伴わない早期の肺癌が発見されることが増えています。肺癌の標準治療は肺葉切除および肺門・縦隔リンパ節郭清ですが、このような早期の症例に対しては、切除範囲を狭めた縮小手術を行うことで、根治性を損なわずに呼吸機能を温存することができます。また、肺切除後に別の部位に新たな肺癌ができた場合、低肺機能の症例など、肺葉切除を行うことができない場合にも縮小手術が行われます。
縮小手術には部分切除と区域切除がありますが、このうち区域切除はその領域のリンパ節郭清を行うことができ、また、少し深い位置にある腫瘍に対しても確実に切除ができるという利点があります。しかし、その反面、肺血管・気管支の変異に対して対応する必要があるなど、難易度の高い手術の一つに挙げられます。
当科では区域切除を安全で確実に行うために次のような工夫をしています。
・ 術前に造影CTにて肺血管・気管支の3D画像を構築し、入念な術前シミュレーションを行い、肺血管・気管支の多彩な変異、腫瘍との位置関係を十分に把握します。
・ 術中は、手術室のモニターに3D画像を描写させ、実際の血管の走行などを照らし合わせ過不足なく安全・確実に手術を行います。



3)小型肺腫瘍に対するCTガイド下マーキング
悪性腫瘍が疑われる肺の小型陰影に対しては、診断・治療を目的とした胸腔鏡手術を積極的に行っています。胸腔鏡手術では術中に腫瘍の部位を確認するのが困難と考えられる場合があり、その際は、手術の直前にCTガイド下に皮膚からマーカーを刺入して腫瘍の位置を特定します。特に早期の肺腺癌の診断・治療に有効です。
4)癌遺伝子解析を用いた化学療法(分子標的薬、免疫療法)
切除された肺癌組織から癌遺伝子の検索や癌細胞に対する免疫反応を測定し、術後の予防や再発、転移に対する治療を行います。
スタッフ紹介
医師名 | 専門領域 | 略歴等 |
部長 タカスナ ケイイチロウ 髙砂 敬一郎 |
呼吸器外科(肺癌、縦隔腫瘍、自然気胸、肺感染症に対する手術、胸腔鏡手術) |
2004年7月着任 |
専門性に関する資格 | ||
日本外科学会(外科専門医) 日本胸部外科学会(認定医) 日本呼吸器外科学会(呼吸器外科専門医) 日本がん治療認定医機構(がん治療認定医) |
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部長 シイナ タカユキ 椎名 隆之 |
専門領域 |
2017年1月着任
日本呼吸器外科学会(評議員) |
呼吸器外科(胸腔鏡手術、ロボット支援下手術) |
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専門性に関する資格 | ||
日本外科学会(外科専門医・指導医) 日本胸部外科学会(呼吸器外科専門医) 日本ロボット外科学会(呼吸器外科専門医) |
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医員 コイケ サチエ 小池 幸恵 |
専門領域 |
2023年4月着任
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呼吸器外科・外科 |
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専門性に関する資格 | ||
日本外科学会(外科専門医) 日本呼吸器外科学会(呼吸器外科専門医) |
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乳腺内分泌外科スタッフ
医師名 | 専門領域 | 略歴等 |
部長 モチヅキ ヤスヒロ 望月 靖弘 |
乳腺外科、甲状腺外科外来 |
2013年3月着任
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専門性に関する資格 | ||
日本外科学会(外科専門医) 日本乳癌学会(乳腺専門医) 日本甲状腺外科学会(専門医) 日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会(責任医師) |
呼吸器外科治療実績
呼吸器外科治療実績(2013年度)
呼吸器外科治療実績(2014年度)
呼吸器外科治療実績(2015年度)
呼吸器外科治療実績(2016年度)
呼吸器外科治療実績(2017年度)
この後の実績は臨床統計のページでご覧ください。
→ https://www.inahp.jp/0300022.html
日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医合同委員会 基幹施設 および
新専門医制度による専門研修基幹施設(信州大学医学部付属病院 呼吸器外科)と連携した
専門研修連携施設に認定されています。
主な疾患と治療は、
1)原発性肺癌・転移性肺腫瘍・縦隔腫瘍などの腫瘍性疾患に対する外科治療
2)進行した原発性肺癌に対する術前および術後の化学療法や放射線療法
3)早期の肺癌あるいは低肺機能症例に対する肺機能温存を目的とした縮小手術
4)自然気胸、手掌多汗症などの良性疾患に対する外科治療
5)胸部外傷に対する治療
上記、肺・縦隔疾患の外科治療を中心とした診療を行っています。